PatBaseとエクセルで簡易特許分析-第2回「CATL」

佐藤総合特許事務所の弁理士 佐藤です。

RWS社のPatBaseとエクセルを連携した簡易特許分析の記事の第2回です。
第1回「Tesla Inc.」はこちら

今回は、前回のテスラ社への車載電池供給でパナソニック社の一社独占を切り崩し、他の自動車メーカでの採用も広がっている寧徳時代新能源科技股份有限公司 (Contemporary Amperex Technology Co., Ltd. 通称 CATL)の特許を見ていこうと思います。なお、中国漢字の簡体表記では「宁德时代新能源科技股份有限公司」になります。中国系のサイトで検索をするときは簡体字での検索が必要になります。ホームページは↓

CATLのホームページ

このホームページの会社紹介からGlobal Locationを引用します。

本社は中国の福建省寧徳市にあり、工場は中国をメインに欧州(ドイツ テューリンゲン州の州都エアフルト)にもあり、子会社は日本と米国にもあることがわかります。

CATLに関するその他の情報ソース
寧徳時代新能源科技 - Wikipedia
CATL (Contemporary Amperex Technology Co., Ltd.)[寧徳時代新能源科技股份有限公司 (CATL)] - 自動車産業ポータル マークラインズ (marklines.com)
300750.SZ - Contemporary Amperex Technology Co Ltd 概要 | Reuters
宁德时代新能源科技股份有限公司_百度百科 (baidu.com)
宁德时代新能源科技股份有限公司 - 爱企查 (baidu.com)
EV用電池で世界最大手のCATL、「ルーツ」は日本企業だった - M&A Online - M&Aをもっと身近に。 (maonline.jp)

本件に関する無料の特許分析情報
特許出願技術動向調査 | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp)  化学の平成29年度に「リチウム二次電池(24年度更新)」があります。
※ここからダウンロードできるファイルは要約版ですが結構なボリュームがあり参考になります。さらに詳しく知りたいときは上記ページの一番下の問い合わせから依頼することで詳細版のPDFも入手可能です。

検索式

今回は簡単に会社名だけで検索しています。

PA=(contemporary amperex technology)

PatBaseで検索する際はコマンド行にこのまま貼り付けて検索できます。

含まれる会社は以下の通りです。この情報に基づいてCATL関連の会社は適宜名寄せして分析を行います。

中国から外国に出願された際に社名が中国語表記の名称から英語に書き換えられている関係か、別名称になっているものもあります。

簡易分析結果

上記検索式で、2021年10月4-5日に検索し分析を行いました。
まずは概要を知るのに簡便な"analytics V3"のダッシュボードで確認します。
(以下の図で細かくて見づらいときはクリックして拡大してください)

  • ダッシュボードでは、出願国、年ごとの出願・登録件数、分類フィールドや分類セクターなどを並べています。
  • 出願されているファミリー数は約4000件、出願件数は約7000件、登録件数は約4000件という規模のポートフォリオになっています。
  • 出願はアジア、欧州、米国にされており、本社や工場がある中国での出願が多くなっていることがわかります。
  • 出願され始めてからまだ10年も経過しておらず、9割を超えて存続しています。出願は2019年に最大になっています。

次に、各国のファミリー数、出願件数、登録件数のグラフを見てみます。

  • ファミリー数では、中国が最大で、PCTとEPCと米国の数が比較的近い状態でそれに続きます。
  • 続いて、ドイツ、日本の順になっていることは市場の規模や競合企業の所在から考えれば妥当な件数かと思います。
  • これに対し、サムソンSDIやLG化学のような主要な競合のある韓国での出願が非常に少ないことが気になりました。競合企業の所在よりも市場の規模を重視して出願国を選んでいることが推測されます。
  • 参考まで2020年10月にJECTROから発行された「主要国の自動車生産・販売動向」掲載の販売台数上位国に関する表の上位20位までを抜粋し引用します。

出典:主要国の自動車生産・販売動向(2020年 日本貿易振興機構(ジェトロ)海外調査部)

各国の出願について各年ごとに認識されているファミリーの数をまとめてみます。

  • 中国以外では、日本とドイツで古くから出願されていたもののファミリー数は大きく増えておらず、欧州と米国のファミリー数が大きく増加しています。
  • 2020年から多くの国でのファミリーが確認され始めていることから、この少し前に出願戦略を大きく変え、ビジネス可能性のある国については権利化する方針に変えたものと推測されます。

次に、各国の審査状況を見てみます。

  • 中国におけるファミリー数が4000件程度なのに"Granted"が8329件となっているため、なぜかと思い対応する実際の公報の数を見てみたところ3255件となっていました。このため、中国では複数回の"Grant"がされているものと思われます。
  • 同じく図中の"Published"が5348件であるに対して実際の対応する公報数は1838件となっていました。
  • 正直言って、この図だけを見ても何も分かりませんが、今後掲載する他の企業との比較も考え今回も掲載しました。

次に他社との関連性を見るために引用関係を見てきます。まずは、引用数別の上位の出願人を確認します。

  • CATL関連(元親会社のATLを含む)を除くとサムスンSDIやLG化学のような韓国勢が上位にあがっています。
  • 日本勢では、三洋電機、トヨタ自動車、ソニー、日産自動車などがあがっています。
  • CATLに技術的に関連のあるメーカに興味がある人も多いと思いますので、字が細かくなりますが50位までを掲載します。

次は、被引用数別の上位の出願人を確認します。

  • CATL関連を除くとBYDが一番多くなりました。こちらも参考まで50位までを掲載します。

今回は前回は見なかった共同出願人を確認するために、出願人のデータからCATLやATL関係を除いた出願人名を確認しました。
以下のグラフでは上位30番目までを示します(概略を把握することを目的にしているので細かい名寄せはしていません)。

  • ほとんど中国メーカや中国の大学と思われる名称が並んでいるなか、BMWとの共同出願が4件あることが確認されました。参考までこの4件について公報番号と発明の名称の機械翻訳を示します。

WO 20200399 A1 リチウム電池と、その中に含まれる電解質添加剤としてのゲルマニウムオルガニル系電解質添加剤の使用
WO 20192927 A1 リチウム電池およびその中に含まれる電解質添加剤としての尿素系添加剤の使用
WO 20119897 A1 電子安全機能を有する電池セルのキャップアセンブリ
WO 18224167 A1 リチウム電池と、その中に含まれる電解質添加剤としてのトリフェニルホスフィンオキシドの使用

  • 三元系のバッテリーの組成やバッテリーセルのキャップ構造などに関する発明で共同出願がされていることが分かりました。

次は、特許分類としてCPCの付与数上位40位を見ていきます。

今回も内容を把握するため自作のエクセルで分析した結果を見ていきます。まずは上位20位まで

続いて上位40位まで

  • このエクセルでは、サブグループのコードとその説明に、グループ以上のコードと説明を併記しています。今回はセクションを色分けしてみました。
  • 「Y02E60/10(電池を用いるエネルギー貯蔵)」が、約8割(3971ファミリー中3008ファミリー)に付与されており、かなり多くの出願に付与されていることが分かりました。電池に関する簡易調査をする場合はこのCPCを併用したほうがよいと感じました。

続いて、セクションHとセクションYを除いた残りのセクションについて上位のコードを確認してみます。

  • バッテリーの管理に関するセクションGや、車載バッテリーに関するセクションBが多いようです。
  • 化学系のセクションCも少数含まれています。

折角なので中国の電池メーカーでよく用いられるLFP(リン酸鉄リチウムイオン)電池関連の特許がどのぐらい出願されているか確認するため、対応するCPCと思われる"H01M4/5825"を確認しました。

  • 出願は50ファミリー程度で全体の1.3%程度でした。
  • なお、CATLといえば2021/7/29にナトリウムイオン電池(NIB)の商用化するオンライン発表会が開かれたことが記憶に新しいのですが、本件の集合に関連しそうなキーワード(鈉離子電池 or Sodium_ion battery or Sodiumion battery or Sodium-ion battery or ナトリウムイオン二次電池 or ナトリウム二次電池 or ナトリウムイオン電池)を掛け合わせて検索したところ、30件程度がヒットしました。そこで、対応するCPCがあるか確認しましたが、もっともそれらしいのが"H01M10/054(リチウム以外の金属,例.マグネシウムまたはアルミニウムの挿入を伴う二次電池)"でナトリウムに限定されているものでないため、NIBに確定できないことから深追いはしませんでした。

エクセルでの分析の最後として、上述したCPCの分析から付与状況を集計しました。
具体的には、サブグループまでの付与状況を付与されているCPCの種類をカウントしたもの、CPCの付与数をファミリー、出願、登録の3種についてまとめました。

  • やはりセクションH(電気)が最多で、セクションY(新規付与)がこれに続きますがセクションB(運輸関係)やセクションG(物理学)も付与数では多いです。
  • セクションYが付与種類では少ないものの、Y02E60/10などで上位であったために付与数では2位になりました。

最後に"analytics V3"の結果に戻り、出願のタイトル及び要約から抽出したキーワードのクラスタリングを見てみます。

  • 特許用語のノイズと思われるキーワードもありますが、バッテリーパック(Battery Pack)や製造コスト(Manufacturing Cost)など重要キーワードが並んでいます。
  • 絞り込みをかけるときにはこれらのキーワードも一度確認し利用するのがよいのではないかと思います。

まとめ

以上で確認した内容をまとめます(ほとんど転記なので読まなくても大丈夫ですが、ポイントと思われるところを太字にしています)。

  • 出願はアジア、欧州、米国にされており、本社や工場がある中国での出願が多くなっています。最大の中国に続いてPCTとEPCと米国の数が比較的近い状態でそれに続きます。
  • 続いて、ドイツ、日本の順になっていることは、市場の規模や競合企業の所在から考えれば理解出来ます。これに対し、サムソンSDIやLG化学のような主要な競合のある韓国での出願が非常に少ないことから、競合企業の所在よりも市場の規模を重視して出願国を選んでいると推測されます。
  • 中国以外では、日本とドイツで古くから出願されていたものの件数は大きく増えておらず、欧州と米国の出願が大きく増加しています。
    2020年から出願国が拡大していることから、この頃に出願戦略を大きく変え、ビジネス可能性のある国については権利化する方針に変えたものと推測されます。
  • 引用関係から見ると、CATL関連(元親会社のATLを含む)を除くとサムスンSDIやLG化学のような韓国勢が上位にあがっています。日本勢では、三洋電機、トヨタ自動車、ソニー、日産自動車などがあがっています。被引用関係から見ると、CATL関連を除くとBYDが一番多くなりました。
  • 共同出願人を確認すると、ほとんど中国メーカと思われる社名が並んでいるなか、BMWとの共同出願が4件あることが確認されました。公報を見ると三元系のバッテリーの組成やバッテリーセルのキャップ構造などに関する発明について2017年頃から出願していることから、バッテリーセルについての共同開発をCATLとBMWで行っていることが推測できます。
  • CPCを見ると「Y02E60/10(電池を用いるエネルギー貯蔵)」が約8割(3971ファミリー中3008ファミリー)に付与されており、大半の出願に付与されていることが分かります。電池に関する特許調査をする場合はこのCPCを併用したほうがよいと感じました。
  • 上位を占めるセクションHやセクションYを除くと、バッテリーの管理に関するセクションGや、車載バッテリーに関するセクションBが多いようです。化学系のセクションCも少数含まれています。
  • LFP(リン酸鉄リチウムイオン)電池関連の特許に対応するCPCと思われる"H01M4/5825"が付与された出願は50ファミリー程度で全体の1.3%程度でした。
  • セクションレベルでの比較をすると、やはりセクションHが最多で、セクションB(運輸関係)やセクションG(物理学)も付与数は多いです。
    セクションYが付与種類では少ないものの、Y02E60/10などで上位であったために付与数では2位になりました。
  • キーワードクラスタではノイズと思われるキーワードもありますが、バッテリーパック(Battery Pack)や製造コスト(Manufacturing Cost)など重要キーワードが並んでいますので、
    絞り込みをかけるときにはキーワードクラスタを確認するのが役に立つのではないかと思います。

感想など

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

車載バッテリーでシェアが急拡大しているCATLの特許を俯瞰的に分析をしてみましたが、いかがでしたでしょうか?

今回は、"analytics V3" の作図機能では難しい「上位のデータを外して下位のデータを見やすくする」表の例や、CPCの付与状況集計の図表ように、系列の並び順や色の使い方によって理解が容易になったりする図表の組み合わせ例を示してみました。今後も一工夫でデータの価値を高めるテクニックなど紹介できればと思います。

以上、何らかの気づきなどを提供できたのであれば幸いです。
また本件の深掘りやそれ以外での調査や特許分析などの案件についてのご相談がありましたら、私の特許事務所HPお問い合わせからお知らせいただければと思います。